山下一仁『農協の大罪』

「日本にとっての農政とは、外交政策であり防衛政策である。その中枢に就く者には外交・防衛戦略にも長けている最高級のインテリジェンスを揃えるべき」と常々考えているわたしにとって、この本は実に溜飲の下がる一冊だった。

カロリーベースの食料自給率が40%を割っている(という言説にも疑問は持っているのだが)といわれる今の日本。この状況を変えるには、たとえばミニマムアクセスのような外圧に対しても唯々諾々と従うのではなく、水も漏らさぬ緻密な理論武装ではっきりと「NO」と言える交渉力が必要である。できたはずである。

なのに、できない。なぜか。

タイトルそのまま、族議員を通して戦後の農政を間接的に支配してきた農協(JA)が恐るべきほどの政治力を発揮し、農水官僚の手足を押さえつけてきたからである。元農水官僚である著者による言説なので一方的に鵜呑みにするわけにはいかないものの、たとえば

農家も農協も、脱農・兼業化で豊かになった。農協は“農業”協同組合としての実体を喪失しつつある。
(p. 97)

の指摘は至極もっともなのではないだろうか。

……ということで、親指シフトの練習を兼ねて例によって抜き書き。

 農業と工業の大きな違いは、農業では季節によって農作業の多いときと少ないときの差が大きい(農繁期と農閑期)ため、労働力の通年平準化が困難ということである。
(p.26)

 日本農業には、国際競争力の低さ、高い関税の必要性を指摘されている米や麦などの土地利用型農業と、鼻や野菜などそれほど多くの土地を必要としない農業の2種類がある。後者では、企業的な農業経営により、多くの収益を上げている農家が多い。問題は前者の土地利用型農業である。
(p.30)

米価政策というのは、戦後、米価を抑えるためにあったのだからね。それはそうでしょう。インフレでどんどん高くなったから。それをできるだけ抑制するという思想でできていた。それを、今度は米価を上げるための手段として講じた。上げるための手段として講じたということはどういうことかというと、需給均衡なんていうことを考えないのですよ。
(p.40)

 農協法の組合員1人1票制のもとでは、数のうえで圧倒的に優位に立つ兼業農家の声が農協運営に反映しやすい。農協にとっても、少数の専業農家ではなく、多数の兼業農家を維持する方が政治力維持につながる。
(p.84)

地価が暴騰したということと、米が過剰で作付転換や休耕をやったこと、この二つが私らのいう古い時代の『農』の心を荒廃させましたな。土地も荒廃したけど、より以上に農の心を荒廃させてしまい、これがまた農業蔑視論といいますか、自ら農業というものを蔑視するという気持ちを強くした。
(p.98)

 本来、国家行政組織は国民のためにあるはずだが、組織はいったんつくられると、それ自体の存続のために一人歩きを始める。「組織のための組織」は農協だけでない。
(p.112)

食料自給率向上を掲げながら、WTO交渉では高関税、高米価を維持するために、自給率を下げるミニマムアクセスの拡大を受け入れようとしている。
(p.129)

都市化の進展により、今や過疎地域の農村では、就業の場が役場、農協、土建会社しかない。こうした地域では、農協のウエイトがいっそう高くなっている。このため、ずさんな有志で経営不振に陥った農協に対しても、地方公共団体は多額の支援をしてきた。
(p.134)

米の販売農家数は、全体では2000年から5年間で16%減少した。このうち3ヘクタール未満の層が軒並み減少しているのに対し、3ヘクタール以上の層は増加しており、特にもっとも規模の大きい10ヘクタール以上の層は、3・4%ともっとも多い増加となっている。つまり、規模の小さい農家が撤退し、規模の大きい農家がますます規模を拡大しているのである。農協の存立基盤が揺らいでいるのである。
(p.153)

農地を農地として利用するからこそ、農地改革は実施されたのだ。宅地へ転用させて、小作人に莫大な利益を獲得させるために農地改革があったわけではないはずだ。
(p.169)

わが国は「水」というきわめて重要な資源を持つ「資源大国」なのである。また、それゆえ経済大国となりえたのである。
(p.175)

 近年の日本では、減反が拡大しているにもかかわらず、需要の減少に生産の減少が追いつかず、米価は低迷している。だから米価を維持しようとすると、減反をさらに強化せざるをえない。
(p.180)

とどのつまりは「食料自給率向上」を声高に叫んでいる連中のやってることが、米価のつり上げ→中間マージンの搾取による既得権益の維持をもくろんだ減反政策だったり、高関税の維持に伴うミニマムアクセス枠の拡大だったりするわけだ。

ところでまったく関係ないが、農林水産省のサイトに掲載されている「大臣訓辞(平成21年度入省式)」が実にすばらしい。自民党という政党はまったく支持していないが、中には思想に共感できる議員もおり、石破茂氏はその一人だとかねて感じているのである。

農林水産省/大臣訓辞(平成21年度入省式)
http://www.maff.go.jp/j/kunzi/h210401.html

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