下北沢にあるアンティークショップ『山本商店』をめぐる人びとの物語。
アンティークショップといっても、ただ古いだけで実用性のない〈道具というより美術品〉的なものを扱うのではなく、タイトルに〈家具〉とあるように日常生活の中で使えるようなアンティークを適正価格で売っているショップなのである。
1968年生まれの経営者・山本彰宏氏はこう言う。
当時(引用者注:1920~1930年ごろ)の職人さんとかは、そんなこと、70年後の日本の生活空間にあうかあわないかなんていうこと、考えて作ってはいない。ただ、これは面白い、かっこいいと思って作ったと思うんですけれど、その材料の選びとかデザインや仕上げの洗練のされ方というのは、本当に見事なものです。
(p.14)
そういう〈見事さ〉に惹かれた山本氏が、職人たちの「面白い、かっこいい」というマインドを感じ、自分でない誰かに伝えるためのハブとしてこの店が機能しているのではないかと思う。じっさい、同書で紹介されている家具たちは(写真がないので判断が難しいかもしれないが)
- 桑張り網代時代簿記机……\35800
- 時代茶水屋箪笥……\25000
- 欅材アンティーク角ちゃぶ台……\12600
などと、決して高くない値付けなのである。
しかも「安かろう悪かろう」ではない。社内にはリペアを行なうスタッフもおり、仕入れた家具に不具合があれば分解掃除し、自作した補修用パーツなども使い、家具としてきちんと機能するように修復するのだ。そこまでやった上での上記のような値付けなのだ。
「最初は父に連れられて、買い付けにいくことから始まりました。
《中略》
僕が父からうるさく言われたのは、自分の目の前を通った品物は絶対に忘れるな、ということでした。儲けたにしても、失敗したにしても、その品物をよく覚えておけ。そうして、もう一度、自分の前にそれと似た品物が出てきたら、絶対に儲かるように買い付けろ、と言われた。
(p.42)山本商店が品揃えの中心に置いている和家具、これをトレンドと呼んでいいのかどうなのか、とても微妙なところだ。というのは、日本人の生活は、戦後大きくかわったように見えるが、和風の生活は現代の若者たちのなかにでも、意識の底辺を流れる潮流のように確実に存在しているからだ。
(p.60)日本が情報社会として成熟し、未来社会のイメージをくっきりと描きだせばだすほど、そこで暮らす人間の美意識はすでに失われたもの、遙かな記憶、そこにない幻想、あるいはブランド的な記号、そういうものにとらわれていくのである。
(p.85)
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