内沼晋太郎『本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本』

ネットでの書評を読んで気になり図書館で借りてきた。ブックコーディネーター/クリエイティブディレクター/numabooks代表である著者が、自身の〈仕事〉と〈仕事観〉をダブル表紙の装幀で語る、という本である。

第三者をくさすようなことはこのブログでは極力書かないようにしているのだが、「借りよう」という直接の動機になった『仕事の未来をつくる本』サイドの方は少々拍子抜けな出来だった。

自身が関わる仕事を〈お金をもらう仕事〉と〈お金をもらわない仕事〉にカテゴライズし、かつ前者を

  • お金をもらうための仕事
  • お金をもらえてしまう仕事
  • 時間でお金をもらう仕事
  • 成果でお金をもらう仕事

とマトリクス化して自身の仕事観を語っていたのだが、全体的に観念的な話になっていたりトートロジー的な言い回しがあったりで、わたし自身のマインドを変えるきっかけには残念ながらならなかった。あくまで、わたし自身を基準として考えた場合の話であるが。

それでも付箋を貼った箇所はあるので、抜き書きしておく。

「お金をもらう仕事」である限り、フィールドは競争の激しい「資本主義経済」です。しかし「お金をもらわない仕事」は、「資本主義経済」以外のさまざまな場所をフィールドにすることができます。「お金はいりません」といえるからこそ、「ビジネス」を度外視した、「見たことも聞いたこともないもの」を生み出せるのです。
(p.39)

「時間」は有限ですが「成果」は無限です。そういう意味で、もし「成果」にある程度自信がついてきたら、自分の「お金をもらう仕事」の重点を、徐々に下側にシフトしていきたいという考え方もあります。
《中略》
「時給のいい仕事」があなたにあるようであれば、それは「お金をもらわない仕事」を楽しく続けていくためにとても大事なものですので、無理に下にシフトしたりすることはないでしょう。
(p.47)

「フリーター・フリーランス」を目指すにあたり、特に「フリーランス」として働くための何の特殊なスキルもないという人にとって、文章を書くこと、デザインをすること、ウェブを制作することの3つは、比較的身につけやすく、下側の「成果でお金をもらう仕事」になりやすいです。少なくともぼくが見る限り、2009年の現段階ではそうです。
(p.50)

ただし、独学で構いません。
《中略》
ぼくが今回イメージしているのは、まずはあくまでその「にせもの」になることです。
《中略》
「にせもの」であることを自覚しておきさえすれば、ある程度「何でもできます」といえること、そして「いつでも大丈夫です」「安くて平気です」と言えることは、まず「フリーランス」の仕事を取るにあたって大きな強みになります。プライドは不要です。そして、たくさんの仕事が来て少しずつ、「時間」に余裕がなくなってから初めて、値段を高くしたり、場合によっては仕事を断ったりすればいいのです。
(p.52~53)

p.50以降の記述に、わたし自身は少々反発したくなった。ライターやデザイナーの仕事を軽く見てはいないか。ライターやデザイナーを生業としている人たちから見れば、この記述はかなり噴飯ものではないかと思う。少なくともわたしはそうである。

たしかに、これらの職業の参入障壁は低い。設備投資という観点なら、PC1台+関連アプリで事足りてしまう世界である。しかし、物をつくるのは人間でありPCではない。〈にせもの〉がアウトプットする創作物など、はたしてこの世の中に存在してよいものなのだろうか。最初は〈にせもの〉であったとしても〈ほんもの〉を目指す心意気ははなっから持っておくべきだ。それを「独学だから」とエクスキューズするくらいなら、フリーなど目指さない方がいいしそういう道に誘導すべきではない。

「安くて平気です」と言えることがフリーの強み、との言説も疑問である。そうやって一部のフリーランスが自ら自分の地位を落とし不当に安い金額で仕事を引き受けることで、業界全体が〈安っぽいもの〉に見られていってしまうのだ。値段重視で〈にせもの〉をつかんだクライアント(まあ、価格重視なのでクライアント的にはハッピーなのだが)は〈ほんもの〉に対する審美眼をいつまでも持てないままだし、制作物の背後にあるクリエイターを値段でしか判断しなくなるのである。

『本の未来をつくる仕事』サイドのエピソードが興味深いものが多かっただけに、このギャップは残念だった。


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