一口に「医療崩壊」として括られる、日本の医療制度が直面している諸問題。その現状と処方箋を、感情論ではなしに一次情報の収集と分析を通して切り込んでいったのが本書である。しかも、ややもすると粗製濫造気味な近年の新書をしのぐ、抜群の読み応えだった。
例のごとく、付箋を貼った箇所を要約。
- 後期高齢者医療制度は「保険」でなく「制度」。国民皆保険制度が崩れたことを意味している、とも解釈できる。
- 日本は、少子高齢化問題の処方箋を海外に求めているが、現実は逆。この問題は日本が世界のトップを独走中で、諸外国はむしろ日本の今後に注目している。
- 後期高齢者医療制度の運営母体「広域連合」には、2008年度だけでも1000億円単位の補助金が動いている。つまりこの制度は、広域連合という形で巨大な利権を生み出している。
- メタボ検診では、従来正常値の真ん中とされていた数値が上限値に書き換えられている。「異常」の対象者を恣意的に増やすことで、保険者(健保・国保組合)にメタボ対策を強要し、目標を達成できない保険者から後期高齢者医療制度への支援金を割増徴収する(2012年からスタート)意図があるからである。根拠となっているのは「高齢者の医療の確保に関する法律」。
- 高齢者医療費のために現役世代が減量に励まなければいけない理由はまったくない。医療費さえ確保できればメタボ以外でもよく、たまたま「国民の関心が高い」という理由でメタボになってしまっただけである。医療費が十分に確保できなくなったら、メタボ基準をさらに厳しくすればいいだけ。
- 混合診療を禁止する法的な根拠はない。
- レセプトはいまだに紙ベースで計算されている。そのため、これに基づくあらゆる医療統計が2~3年遅れのデータという状況になっている。日本の医療の実情が即座に把握できていないため、不正確な数字と、それをベースとした推論や印象で医療行政が行われているのが現実である。
- 「マネジド・ケア」に代わる言葉として「P4P=Pay for Performance」が出てきている。「パフォーマンスの高い診療プロセスに手厚く診療報酬を支払う」との意で、アメリカやイギリスではすでに導入が始まっている。
- 法律の上では、レセプト審査と医療費の支払いを保険者が行なってもいいことになっている(従来は社会保険診療報酬支払基金が事実上独占)。健保組合と医療機関との直接契約の道はすでに開かれており、今後、大企業の健保組合が優れた医療機関の〈診療枠〉を買い占めるような事態が起きる可能性はある。
- 医療制度の抜本的解決は最初からない。高齢者医療費が増加する理由は、高齢者が増えるからにほかならない。抜本的解決を目指すなら高齢者そのものを減らさなければならず、それは政治以前に人道的に許されない話だろう。
著者は「抜本的解決を目指すなら高齢者そのものを減らさなければならず、それは政治以前に人道的に許されない話だろう」という趣旨のことを述べているが、このことは国民共有の議題として真剣に議論されていいのではないか。高齢者医療にかかっている高齢者が全員、自らすすんで、長生きしたいがために診療を受けているとは思えない。「死ぬに死ねない」から通院している、延命措置をはかられている高齢者も少なくないはずだ。
その観点から考えるに、久坂部羊『破裂』は高齢者医療の本質を突いた傑作といえる。小説の世界の話とはいえ、そこには医療崩壊の「抜本的解決策」が示されているといっていい。